- キリムの魔法のティーカップ -
2024.12.12
遊牧民の布キリムのティーカップについて
昔、勤めていた画材店の近くの喫茶店は、壁一面に様々なカップが飾られていました。
そしてカウンターに座った人には、壁棚から選んだカップで珈琲を淹れてくれる、そんなお店の計らいがうれしくて、当時ワクワクしながらカップを見上げました。
それからティーカップに興味をもつようになり、好きなキリムの文様が描かれたカップでお茶を飲みたいと、自然に思うようになりました。
キリムのカップデザインを考えていた時、ふと思いつきました。
気に入った絵柄で選んだカップでお茶を飲み終わった時に、底にそのモチーフの意味が書いてあって、それが自分の願いとリンクしていたら。
それがこの絵本の物語を考え始めるきっかけとなりました。
絵本「キリムの魔法のティーカップ」絵本に込める思い
2024.12.12
キリムを描きながら、遊牧民の様々な願いが、現代の私たちの願いと通じている事に気がつきました。
前作「願いを伝える遊牧民の布 キリムからの手紙」で、キリムを織ってきた中東の国々に対してそれを感じれたら、日本との距離を縮められるかもしれないと考えました。
「キリムの魔法のティーカップ」の制作にあたり、世界のより厳しい状況に同じ願いという観点だけで全ては語れないと思いあぐねました。
違いは多様性であり、あらゆる発展の源であります。
それと同時に繰り返される殺戮の中、決してあなたと同じではない、むしろ同じである訳がない、絶対に違うのだとする主張は、怒りや嫌悪感と怖れ、他者との差を際立たせる思惑と苦しむ双方の民意が重なって、世界中を席巻しています。
侵略が、世界の所々で現実に行われているのです。
非条理に肉親を殺され、監禁拷問され、家を焼かれ空腹で何も持たず彷徨い、いつ殺されるかもしれない絶望の中にいる人に、私はかける言葉が見つからないのです。
いったいどうしたらいいのかと非力を前に、それでもなお、言葉の力を信じて伝えたいと思いました。
苦しんでいる当事者の方に求めるのは酷で無理な言葉を、同じ時代を生きる者として発したいのです。
もし言葉が不確かなものだとしても、覚悟をもって心を込めて。
「違い」は高さをもたない。広さをもつだけだ。
そして「同じ」と感じる心の動きは、それぞれを際立たせる「違い」、歴史、環境、宗教、イデオロギーを超えて内包する共通点を見つけ、導き照らし出す光だ。
大人として、小さい人たちへ届ける言葉は、どんなに絶望的な状況であろうと、それをみつめなお、上方向の光をまとわせたものでなければなりません。
みんな同じなのだよと。
みんな違うけど、同じなのだよと。
同じと思える気もちはあなたの目線を広げ、私たちを包み込むよ。
その気もちは他者を尊重し、自分をも尊重するよ。その時、きっとあなたが発する光はこの混迷から逃れる一筋の道を照らすよと。
世界が苦しみながら分断と対立に向かうならば、なおさら絵本において伝える言葉は、私にとって一択なのです。
絵本「キリムの魔法のティーカップ」出版によせて
2024.12.12
「キリムの魔法のティーカップ」は、前作「願いを伝える遊牧民の布 キリムからの手紙」と同じくらいずっと考えていたお話しでした。
去年の10月に、「キリムからの手紙」を担当してくださったかもがわ出版の編集者、天野みかさんに私のラフ原稿を見ていただいた所から企画が始まりました。
お子さんにもっと分かりやすく伝わるようにと、何度もアドバイスをしてくださり、ご多忙にもかかわらず出版に向けてのご尽力をいただけましたこと、心からお礼申し上げます。
そして前作に続いて、今作も図書館流通センターさんが買い上げてくださり、全国の図書館に置いていただけることになりました。
こんなにうれしいことはありません。
天野みかさんのお陰で、そしてかもがわ出版の皆さま、デザイナーの土屋さん、シナノ書籍印刷さんのお力でこの絵本を世に出すことができました。
また天野さんにこの絵本の企画を持ち込むきっかけとなったのは、Gallery龍乃屋さんで出品されていたながわよしこさんの銅版画を見て、この方に絵を描いてもらえればお子さんが喜んでくれる絵本になると直感したからでした。
そして私の持ち込んだ原稿に天野さんのGOサインが出てから、オーナーの上野さんの仲介で作画依頼をさせていただきました。
この提案に喜んでくださった上野登志子さんと、私の細かい指示に根気強く絵を描いてくださったながわさんに、心から感謝申し上げます。
この厳しい世界情勢において、若い人たちに向けて発信する機会をいただけました事、とても貴重であると考えています。
いろいろなご縁をいただいて作られた本書が、少しでもキリムの素敵さを、キリムズカフェの温かさを、共生の大切さを伝えられたらと心から願っております。